特に高彩度が要求される塗料系については、顔料を二次粒子(アグロメレート)から一次粒子(アグリゲート)まで解凝集させ、バインダー中で安定させることが望ましい。しかし、樹脂溶液(以下バインダー)と、樹脂分を含まない顔料ペーストを混合して塗料化する方法では、混合時に顔料粒子同士の再接触により凝集を引き起こすケースがあり、彩度が幾分損なわれる問題があった。
油性キャンディーペイント(以下「PHOTON」)においては、超音波により生じるキャビテーションを利用して顔料の分散性を確保し、高透明・高彩度色を実現した。
【写真1】キャンディーペイント「PHOTON」Cyan 【写真2】「PHOTON」Cyan 1500倍 光学顕微鏡写真
超音波を液体中に照射するとキャビテーションを生じる。キャビテーションとは、超音波により液体中に生じる真空の気泡が破裂する際に生じる衝撃波である。顔料が凝集状態のとき、個々の粒子の隙間に空気を含んでいるが、キャビテーションを受けると顔料表面の空気が取り除かれ、バインダーと置換する。「PHOTON」の試作条件においては、塗料100mlに対して40W〜60W 43KHzの超音波を20〜40分間照射し、キャビテーションにより顔料同士の再接触を防ぐことで、一次粒子の安定化を行った。
【写真3】超音波照射前のTitanium White 【写真4】超音波照射後の「PHOTON」Titanium White 1500倍 光学顕微鏡写真
顔料の分散が進むと、光が顔料粒子に対して均一に透過もしくは反射するようになり、彩度、透明度、光沢性が向上していく。しかし、顔料が微細化するほど、粒子間の分子間引力が高まり、再凝集して二次粒子に戻るリスクも高まる。試作当初は、過剰な超音波照射によって再凝集が生じた試験品が多数見られた。
「PHOTON」の最終処方では、超音波照射前に高分子系顔料分散剤を添加することで、立体障害による顔料の再凝集防止を試みた。
結果、ジスアゾ、ピロール、キナクリドン、フタロシアニン、ウルトラマリン、ジオキサジン、カーボンブラック、チタニウムホワイトの顔料ペーストに応用したところ、いずれも【写真2】【写真4】のような一次粒子群を維持しながら、分散状態をコントロールできた。
短所としては、同一条件での作業を行なっても超音波分散結果の再現性が悪い点。また、顔料の一次粒子がキャビテーションによって破壊されると、極めて微細なナノスケールの破片となって集まり、超音波照射時間を長くするほど再凝集のリスクとなる点が挙げられる。
後者は分散剤の併用で改善が可能だが、顔料分散の最終プロセスそのものが不安定な超音波キャビテーションの持続性に依存しており、分散度合いの予測を困難にしている。超音波伝達の効率化による再現性の改善や、より超音波分散に適した分散剤の選定が課題となる。
(2021年3月18日 Lab. 「超音波顔料分散塗料」より)
写真左、中央:試験品の超音波照射の様子 写真右:「PHOTON」のYellow(ジスアゾ)、Red(ピロール)、Cyan(フタロシアニン)
キャンディーペイント「PHOTON」を使用した主な作例
関連コンテンツ:Art Works